京大でがん治療薬の研究を続け、
患者さんの役に立ちたい
京都大学大学院薬学研究科臨床薬学教育分野・准教授 京都大学医学部附属病院薬剤部・副部長 米澤 淳
京大でがん治療薬の研究を続け、
患者さんの役に立ちたい
京都大学大学院薬学研究科臨床薬学教育分野・准教授 京都大学医学部附属病院薬剤部・副部長 米澤 淳
Profile/Atsushi Yonezawa
京都大学大学院薬学研究科臨床薬学教育分野・准教授。京都大学医学部附属病院薬剤部・副部長。 早稲田塾第19期生。神奈川県立生田高校卒、京都大学薬学部総合薬学科、同大学院薬学研究科修士課程医療薬科学専攻、薬学研究科博士後期課程医療薬科学専攻修了。薬学博士。
がん治療の最先端「免疫治療薬」を
治療効果が高い人に投与するための研究
薬学の研究は、最近ではノーベル賞受賞で話題になったiPS細胞のような「基礎研究」と、実際に患者さんと接する「臨床研究」があります。私は、京都大学医学部附属病院に所属して臨床研究をしているほか、医学部・薬学部・看護学部の学生への教育、そして病院薬剤師としても働いています。
今研究しているのは、簡単にいうと「がん免疫治療薬の効き方」について。がんの薬というと抗がん剤を思い浮かべる人が多いと思いますが、抗がん剤は効果が十分ではなく、副作用が強い。がん免疫治療は科学雑誌『Science』で2013年の「breakthrough of the year」を受賞した今注目の研究で、長期間の効果が認められ、副作用も弱いんです。しかし薬というのは、誰にでも同じように効果があるのではなく、人によって“効く・効かない”があります。現在2種類の薬が実用化されているのですが、この薬が効くのは、およそ30%の患者さんのみ。しかも1回の治療で100万円以上と高価なため、「とりあえずやってみる」という訳にはいきません。そこで、どのような人に効果があるのか、それを調べる研究が重要になってくるのです。
高校受験の悔しさから入塾
一生モノの友人たちと出会った
私が早稲田塾に入ったのは、高1になってすぐの頃でした。高校受験で、なんとなく受けた私立高校に落ちてしまったのが悔しくて、その勢いで入学したのだと思います。もう20年近く前のことなので、当時のことはハッキリと覚えていませんが(笑)。町田校に通っていて、「現役生しかいないから落ち着いて勉強できそうだな」と思ったことを記憶しています。16歳の少年にとって、浪人生は怖そうに見えたのかもしれません。 受講していたのは、難関国公立を目指すための数学や英語、あとは物理と化学など。どれも少人数授業だったので、友人がたくさんできましたよ。早稲田塾は、私にとって「第二の学校」のような、親しみのある場所でした。
塾の友人たちとは、高校卒業後もずっと交流が続いています。アジアのどこかで橋を作っていたり、自動車エンジンの研究をしていたり、塾の講師になったり。道はそれぞれですが、世界中で活躍している、一生付き合っていける仲間です。
最近は仕事や子育てでお互いに忙しく、顔を合わせる機会も減りましたが、それでも数年に一度は食事をしますし、SNSでも繋がっています。
部活も、勉強も、友人関係も
目の前のことに全力で取り組んだ
高校時代は、陸上部で中距離を走っていて、市の大会で優勝したこともあります。高3では部長を務めていたので忙しかったけれど、受験一色ではなく、部活も、時には友達と遊んだことも、すべて全力で取り組んだからこそ、受験で力が発揮できたように思います。どれだけコツコツ継続できたか。それが、成功の鍵なのではないでしょうか。
受験生の皆さんは、塾や学校など、色々なところから情報を得て、その中で自分が正しいと思うことを、全力でやってください。目の前にあることに正面からぶつかっていけば、きっと道は拓けます。
人と関わりたくて薬学部へ
東京がダメなら「京都に行こう!」
人と接するのが好きだったし、人体への興味もあったので、医療系に進みたいと思っていました。医大に進んだ先輩と話をする機会があり、そこで「研究に興味がある」と言ったら、薬学部を勧められたんです。当時の担任スタッフと相談して、センター試験直前に東大・理IIの受験を決めたのですが、センターで伸びず……。二次の対策不足もあり、前期不合格。でも東大の後期は生物があって、物理・化学だった自分は受験できない。そこで、「東京がダメなら京都だ!」と、京大受験を決めました。10歳まで兵庫県に住んでいたので、関西に住むことに抵抗はありませんでした。
京大の薬学部は1学年に80人しかいないので、それが一つのクラスみたいな雰囲気。楽しくて、ここでも良い友人がたくさんできました。みんなでワイワイとスキーに行ったり、テニスをしたり。勉強や実習は忙しかったけれど、とても楽しい大学生活でした。
将来の<夢>一人でも多くの患者さんを救うために、研究の道に終わりはない
がん治療に使われる抗がん剤は副作用が強く、患者さんの体力を奪う。それに「Aという薬が効かなかったら、次はB」のように、いわゆる“抗がん剤のコース”があり、効果が出なかったら次々と薬を変えていく必要がある。もし、事前にその患者さんへの効果があるかないかがわかっていたら、より短期間で、効果的な治療が可能になるし、身体への負担も減る。私たちは、そのための研究を行っています。
京大の医学・薬学研究というと、iPS細胞の発見でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授が有名ですが、私たちのような臨床研究は、大きな賞にはあまり縁がありません。ただ山中教授にしても、賞のために研究をしたのではなく、医療を良くしたいという思いからなさっている。私も、何より、目の前にいる患者さんの役に立ちたい。その思いが、モチベーションとなっています。
今後はがん免疫治療薬の種類が増えていきますし、それに加えて従来使用していた抗がん剤もある。それら一つひとつについて調べていくわけですから、研究に終わりはありません。まだまだ、道は半ばです。
プライベートでは、一児の父でもあります。3歳の男の子で、先日、医療系のイベントに子どもを連れていって薬剤師体験をしたのですが、結構楽しそうでした。私が研究室で働く後ろ姿を見せたい、という気持ちもあります。子どもに見られている以上は、恥ずかしい仕事はできないですからね。
―― 研究者らしい落ち着いた語り口の中に、熱い情熱を垣間見せてくれた米澤先輩。日本人の2人に1人はがんにかかる現代において、多くの人が待ち望む研究を続け、1人でも多くの患者さんを救っていただけるよう、研究の成功を期待しています。
京都大学大学院薬学研究科臨床薬学教育分野・准教授
京都大学医学部附属病院薬剤部・副部長
薬学博士